成年後見制度と空き家

2025年問題・空家問題等から起こりうる注意点とその防衛策を分かりやすく解説。
高齢者問題等に積極的に取り組んでいる司法書士:寺島優子さん執筆の「成年後見制度と空き家」をご紹介します。

成年後見制度の現状

2016年12月末時点における成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は合計20万3551人でした日本には2012年時点で462万人の認知症高齢者がいますから、成年後見制度の利用者がいかに少ないかが分かります。

医療の進歩により平均寿命が延び、その延びが健康寿命の延びよりも大きいこと等から、財産を管理する能力がない高齢者は今後も増えていき、2025年には700万人に達すると言われています。

成年後見制度を利用しない認知症の高齢者が、後見人が必要であるにも関わらず日々の契約を自分で行い、その数は442万人にも達し、今後も増加していくとすれば、法治国家としては非常に問題がある事態なのではないでしょうか。

「措置から契約へ」

ノーマライゼーション(高齢者や障害者が、住んでいる地域で普通に生活できる)の理念が社会に浸透するにつれ、「自分のことは自分で決めたい」という気持ちを尊重する流れが生まれ、その結果、福祉サービスを受けるにも、サービスを行政が一方的に決めるのではなく、本人が、自分の受けたいサービスを決め、事業者と契約をする制度に変わっていきました。

その結果、判断力が低下した方であっても、福祉サービスを受けるには自らサービス内容を確認し、契約を締結する必要があります。

現在、65歳以上の要介護認定者数は2013年度末で569万1000人です。75歳以上だと被保険者のうち23.3%が要介護認定を受けています。

要介護状態になれば、介護保険の申請や更新、必要な介護制度の利用、施設との契約、不要になった自宅の売却、病院の入院手続など様々な契約が必要となります。

その時、判断力の低下があると、こうした契約を自分で行うことが困難となります。

厚生労働省によれば、介護が必要な65歳以上の高齢者を介護しているのは、同じく65歳以上の高齢者である「老老介護」の世帯の割合が過去最高の54.7%に達しました。また、80歳前後の夫婦の約11組に1組が、認認介護の可能性があるそうです。

様々な契約を結ばなければならない時に、介護する家族も認知症であるとすれば、必要な支援が滞ります。そんな時、必要となるのが成年後見人等です。

成年後見制度の中には自己決定権の尊重の理念があり、後見人等が本人のことを代わって決めるときには、本人の意思を尊重して行うこととされています。

孤立死の増加

高齢者の単身世帯が増加しています。2010年には、男性約139万人、女性約341万人で、高齢者人口に占める割合は、男性11.1%、女性20.3%となっています。高齢者の単身世帯が増加すると、かつては家族内で役割分担できていたことが、家族以外の誰かの手が必要になります。

例えば、判断力が低下した高齢者には、4親等内の親族が後見人を選任するための申立をすることができます。しかし、家族が近くに居なければ、判断力の低下に気づくことができません。その場合、放置すれば事態は悪化しますので、成年後見制度に於いては、市町村長申立という制度を使って、後見人の選任申立をします。

市町村長申立は、4親等内の親族がいない場合の例外的な制度なので、制度開始当初は全申立の0.5%に過ぎませんでした。この数が2016年は18.8%になりました。家族の支援を受けられない高齢者数の増加が、この数字から分かります。

家族に気づかれぬまま、判断力が低下した高齢者の家は、適切な管理をする者がいない訳ですから、ごみ屋敷化したり、事件事故の原因となっていきます。

さらに、そこで孤立死が発生すると、警察を呼んで処理するしかなく、処分困難な不動産が増加する一因となります。

大切に守り続けた不動産が、判断力の低下による管理不全を原因として、負動産化していくのはとても悲しいことです。

市町村長申立がなされた後は、法定後見人等が認知症高齢者の財産を守りますが、家族の支援がない方に対して行う制度なので、認知症高齢者の希望を読み取ることが難しいことも残念な点です。

本当は不動産を維持してほしかったのか、手放して良いのか、社会のために活用してほしかったのか、そういった希望があるのであれば、事前に任意後見契約などで意思を明確にしておくことが望ましいのです。

任意後見契約締結時に見守り契約を併せて結んでおくと、負動産化や、孤立死の問題を予防することができます。

不動産の処分

施設に入所した後、自宅の処分を保留にされる方がいらっしゃいます。しかし、入所後に判断力が低下すると、自宅の修繕及び管理、不要な自宅の売買ができなくなります。その結果、管理不全の空家が増加します。

日本の全国の空家率は現在13.5%にも達します。空家820万戸のうち、管理不全の空家は318万戸存在します。東京都では、空家率自体は10.9%と低いのですが、密集地に於いては、問題空家の与える被害は深刻です。

施設入所後も、自宅は最低でも年2回以上は確認に行く必要があります。その際に修繕が必要であれば、適宜行わなければなりません。

管理不全の空家はすぐに荒れ果てて行き、動物の棲家となる、落書きされる、ゴミが勝手に捨てられる、犯罪に利用されるといった問題を引き起こす可能性があります。

国はこうした問題を解消するため、2014年11月に空家対策の推進に関する特別措置法を成立させました。この法律では、空家所有者の適切な管理責任が定められました。

公益財団法人日本住宅総合センターの試算によると、

  • 外壁材が落下し通行人の男の子が死亡した場合の賠償額は5630万円
  • 倒壊して隣接家屋が全壊し、夫婦と女の子が死亡した場合の賠償額は2億860万円
  • 空き家が原因で隣家に白アリ、ネズミの被害が発生した場合は23.8万円

空き家の放置は、非常に高額な損害を発生させる危険が在ることが分かります。

介護施設に入所した後も、自宅管理を適切に続けられないのであれば、適切な時期に管理や売却を代わって行う後見人等を選任する必要があります。

事前に後見人を契約によって選んでおく任意後見契約であれば、管理方法について自分で指示することが可能です。

90歳以上の人口が、遂に200万人を超えました。長生きと、自分の財産を管理できないリスクは隣り合わせです。幸せな老後のために、健康寿命に達したタイミングでぜひ、自分で後見人を選んでおく任意後見契約の活用を検討してみてはいかがでしょうか


【著者紹介】
司法書士 寺 島 優 子
〒259-0123 神奈川県中郡二宮町二宮1324-1 1階
寺島司法書士事務所(土地家屋調査士との合同事務所)
TEL.0463-79-8697
神奈川県司法書士会第1813号
簡裁訴訟代理業務認定第1001224号
一般社団法人民事信託推進センター社員
日本財産管理協会認定財産管理マスター
成年後見リーガルサポート会員

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