賃貸経営を継続させたい場合、自分が亡くなった後の事業承継について検討しておく必要があります。
しかし、具体的な事業承継の方法や対象者にはたくさんの種類があります。また、それぞれにメリットやデメリットがあるので、お悩みの方も多いことでしょう。
この記事では事業承継の方法と対象者、それぞれのメリットとデメリットについて解説します。
賃貸経営の事業承継とは
賃貸経営の事業承継とは、自身の所有賃貸物件とその経営を承継者に引き継ぐことを言います。自身が亡くなった後も賃貸経営の継続を望む場合、事業承継を行うことは必要不可欠です。
事業承継の必要性について
入居者への迷惑を避けるためにも、賃貸経営で事業承継を行う必要があります。所有者が賃貸経営を継続できなくなっても、入居者には物件に住み続ける権利があるからです。
また、親族や従業員の利益を確保するためにも必要です。自分がいなくなった後にも事業を継続させることによって、親族や従業員が得られる利益を守ることができます。
後継者に承継できるもの
賃貸経営の事業承継を行う際、後継者に承継できるものは以下になります。
土地や物件
賃貸経営を行っている土地や建物などの物件を承継することができます。不動産の評価額や実際の納税負担について確認しておきましょう。さらに、生前と死後では適応される制度に違いがあるので、しっかりと把握しておくことも必要です。
資金
土地や物件を維持するための運転資金を承継することができます。ただし、借入金も承継されることになります。候補者に承継を拒否されないよう、健全な経営を心掛けておきましょう。また、資金の運営・管理方法などを承継しておくことも大切です。
情報や理念
事業に必要な情報や自身の経営理念を承継することができます。周辺の賃貸物件の家賃相場や入居者の情報などをまとめておくことで、スムーズな事業承継が可能です。また、自身の経営理念も承継することで、既存の入居者との信頼関係も継続できます。
賃貸経営における事業承継の方法について
賃貸経営における事業承継の方法には、以下のようなものがあります。それぞれにメリットやデメリットが異なるので、特徴をよく理解しておくことが大切です。
相続
経営者の死後、所有していた物件や権利を相続人に引き継ぐ方法です。賃貸経営に必要な賃貸用不動産などを後継者に譲り渡すことで、賃貸経営の事業を承継します。
相続での事業承継におけるメリット
相続での事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
小規模宅地等の特例によって、相続税評価額を減額できる可能性があります。また、相続時の築年数によっては、生前贈与より課税額が低額になる場合があります。
相続での事業承継におけるデメリット
相続での事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
賃貸物件は相続税の基礎控除額を超える場合が多く、納税負担が生じる可能性が高くなります。さらに、将来的に評価額が上昇しそうな物件の場合、生前贈与よりも節税できないケースもあります。
生前贈与
経営者が存命のうちに、所有していた物件や権利を贈与することによって事業承継を行う方法です。亡くなったときに自然発生する相続とは違い、自発的に行います。
生前贈与での事業承継におけるメリット
生前贈与での事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
生存している状態で自分の好きなタイミングに継承できるので、継承後の事業を見守ることができます。さらに、相続する相手や累計の贈与額によっては相続時精算課税制度を利用でき、節税効果を上げられます。
生前贈与での事業承継におけるデメリット
生前贈与での事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
評価額が高額になりがちな不動産は贈与税がかかる場合が多く、相続税よりも税負担額が高くなりがちです。さらに、贈与を受けた年から決まった期間に贈与した人が亡くなると、贈与財産が相続財産に加算されてしまいます。
法人化
個人事業の賃貸経営を法人化してから、子どもや孫に引き継ぐ方法です。以前は法人化する際の「資本金」や「役員の数」が大きなハードルになっていましたが、現在では大幅に緩和されています。
法人化での事業承継におけるメリット
法人化での事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
法人化することで共有名義での相続を避けられ権利が明確になるので、親族間のトラブルを避けることができます。さらに、果たすべき責任も大きくなる分、取引先や金融機関からの信用を得やすくなります。
法人化での事業承継におけるデメリット
法人化での事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
法人化の手続きには、2ヶ月ほどの時間や20万円を超える費用がかかる場合がほとんどです。さらに、事業規模によっては後々に税金が高くなる可能性があり、長期的な視点でみると相続や生前贈与よりも納税負担が増える可能性があります。
賃貸経営における事業承継の対象者について
賃貸経営における事業承継の対象者には、以下のようなものがあります。事業承継の方法と同様、それぞれにメリットやデメリットが異なります。
親族
親族内の事業承継とは、経営者の子どもや親戚を、次の経営者とする事業承継です。日本では最も一般的な事業承継手法ですが、後継者不足が問題化している現在では、親族内承継の割合も年々減少しています。
親族内での事業承継におけるメリット
親族内での事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
経営者本人の親族が後継者となるため、早い段階からの育成や引継ぎ準備ができます。さらに、相続や贈与の方法を選べることで、相続税や贈与税の節税対策をすることができます。
親族内での事業承継におけるデメリット
親族内での事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
親族の中に、賃貸経営に関する能力や意欲がある人材がいるとは限りません。さらに、他の相続人との間に、賃貸物件を含めた遺産に関するトラブルが生じる場合もあります。
社内
社内の事業承継とは、親族ではない社内役員や従業員を次の経営者とする事業承継です。
社内での事業承継におけるメリット
社内での事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
全従業員の中から、特に経営者としての資質を備えた人材を見極めて選ぶことができます。さらに、企業文化や雰囲気を共有してきたことから、業務や経営理念を円滑に承継することができます。
社内での事業承継におけるデメリット
社内での事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
後継者である従業員や役員には物件や株式を買い取ってもらうことが一般的ですが、社員である従業員が十分な資金を用意できない場合があります。さらに、経営者が承継を決めても、他の従業員からの反発を受ける場合があります。
外部第三者
家族や社内の役員・従業員ではなく、外部の人材や企業を次の経営者とする事業承継です。親族や社内に適任者が見つからない場合の選択肢となります。
外部第三者への事業承継におけるメリット
外部第三者への事業承継における主なメリットは、以下の2つです。
賃貸経営の知識と経験を持った候補者の中から、最適な後継者を選ぶことができます。さらに、事業を売却する場合には、対価としてまとまった資金を手元に得ることもできます。
外部第三者への事業承継におけるデメリット
外部第三者への事業承継における主なデメリットは、以下の2つです。
後継者候補を見つけられても、希望していた条件で交渉がまとまるとは限りません。また、経営者個人との信頼関係で結ばれている取引先や入居者の場合、外部第三者への変更に賛意を得られない場合もあります。
賃貸経営の事業承継における注意点とは
賃貸経営で事業承継を行う際には、以下のような点に注意しましょう。
相続争いへの対策を行う
相続争いを回避するためには、賃貸経営に関する物件や資産を含め、相続に関する内容を親族間でしっかり話し合っておきましょう。遺言書の作成有無、納税負担の有無やその金額についても明確にしておくことが必要です。
後継者への教育を徹底する
後継者に必要な知識や能力を明確にし、それを身につける機会を与えましょう。社内の業務への従事や外部セミナー参加などの社外教育をうまく組み合わせ、後継者への教育を徹底することが必要です。
信頼できる専門家を確保しておく
事業規模や所有する不動産などの要素によって、最適な事業承継の方法や対象者は異なります。自身にとって最適な内容を選択することは難しいものです。そのため、信頼できる専門家を身近に確保しておくことが重要です。
まとめ
今回ご紹介した賃貸経営の事業承継の方法や対象者は、それぞれによってメリットやデメリットが異なるため、それぞれの特徴をよく理解しておくことが重要です。
また、一般的に事業承継は5〜10年の期間が必要とされています。
特に後継者探しから始める場合は、さらに時間がかかることが多くなります。そのため、納得のいく賃貸経営の事業承継を行うためには、早めのスタートが重要と言えるでしょう。
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