賃貸経営は大きなお金が動くこともあり、納税額も大きくなりやすいです。このため、経営計画を立てる際に納税額を含めてシミュレーションすることが大切です。
賃貸経営において納税額を把握するには、減価償却に関する理解が欠かせません。
本記事では、賃貸経営における減価償却について徹底的に解説していきます。
減価償却とは
ここでは、そもそも減価償却がどのようなものなのか解説していきます。
- 耐用年数に応じて分割して経費計上する仕組み
- 減価償却の種類
- 賃貸経営で押さえておくべき建物構造別の法定耐用年数
それぞれ見ていきましょう。
耐用年数に応じて分割して経費計上する仕組み
減価償却は使用することで価値が減少する固定資産について、税金の計算上、耐用年数に応じて分割して経費計上する仕組みのことです。
例えば、2,200万円の建物を購入して耐用年数が22年だった場合、22年間、毎年100万円ずつ経費計上するといったことが可能になります。
減価償却の種類
減価償却には以下の種類があります。
- 一括減価償却
- 少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例
- 通常の減価償却
まず、一括減価償却とは取得価格が10万円以上20万円未満の減価償却資産について、使用開始から3年間に渡って減価償却できるというものです。
例えば、パソコンなどの償却資産で活用しやすい制度だといえるでしょう。
2つ目の少額減価償却資産の取得価格の損金算入の特例は、中小企業が利用できる特例で、特例の適用を受けることで30万円の資産を一括で経費計上できるというものです。
3つ目の通常の減価償却とは、先程ご紹介した通り、固定資産ごとに定められた法定耐用年数に基づいて償却する方法です。
例えば、通常のパソコンであれば耐用年数は4年のため、一括減価償却か少額減価償却を行うことで、通常の減価償却より短い期間で償却することが可能になります。
これら、減価償却の資産は条件を満たせば、複数の選択肢から選ぶことが可能です。
賃貸経営で押さえておくべき建物構造別の法定耐用年数
賃貸経営の減価償却については、建物構造別の法定耐用年数を押さえておくことが大切です。
アパートの場合、木造・鉄骨造が多く、マンションの場合はRC造が多いです。
このため、基本的にはこの3つの法定耐用年数を押さえておけばよいでしょう。
構造 | 法定耐用年数 | |
木造 | 22年 | |
鉄骨造 | 骨格材肉厚3mm以下 | 19年 |
骨格材肉厚3~4mm | 27年 | |
骨格材肉厚4mm以上 | 34年 | |
RC造 | 47年 |
減価償却費の計算方法とシュミュレーション
ここでは、減価償却費の計算方法について、前提条件を元に実際の物件を想定しながらシミュレーションしてみたいと思います。
新築木造アパートを購入する場合
以下の新築木造アパートを購入する場合の減価償却費を計算してみましょう。
- 構造:木造
- 物件取得費:5,000万円
- 諸経費:500万円
減価償却費は以下の計算式で求めることができます。
(物件取得費-諸経費)×定額法の償却率
まず、木造建物の法定耐用年数は22年です。
また、国税庁の「減価償却資産の償却率等表」を見てみると、耐用年数22年の償却率は0.046となっています。
このため、以下の計算式で減価償却費を求めることができます。
- (5,000万円-500万円)×0.046=207万円
中古の鉄骨造アパートを購入する場合
次に、以下の中古鉄骨造アパートを購入するケースを見ていきましょう。
- 構造:重量鉄骨造
- 物件取得費:8,000万円
- 諸経費:1,000万円
- 築年数:20年
中古の資産を購入した場合、簡便法により、耐用年数を以下のように計算します。
- 法定耐用年数を全て超過しているケース:法定耐用年数×0.2
- 法定耐用年数を一部超過しているケース:法定耐用年数-経過年数+(経過年数×0.2)
骨格材肉厚4mm以上の鉄骨造の法定耐用年数は34年です。
このため、このアパートの耐用年数は以下の通り計算します。
耐用年数:34年-20年+(20年×0.2)=18年
また、耐用年数18年の償却率は0.055です。
上記から、減価償却費は以下のように計算できます。
(8,000万円-800万円)×0.055=396万円
賃貸経営で減価償却するメリット
ここでは、賃貸経営で減価償却するメリットについて、以下の項目に沿って解説します。
- 所得税や法人税を抑えることができる
- キャッシュフローを改善できる
それぞれ見ていきましょう。
所得税や法人税を抑えることができる
まず、毎年減価償却費を計上することにより、個人事業主の場合は所得税を、法人の場合は法人税を低く抑えることにつながります。
特に固定資産税を購入した年の翌年以降は、実際に会期内に出費していないのにも関わらず経費を計上できることもあり、うまく活用することで大きな節税効果を期待できます。
キャッシュフローを改善できる
減価償却を活用することでキャッシュフローの改善につなげることができます。
先述の通り、減価償却の対象となる資産を購入した年の翌年以降においては、実際に現金を支出していないのにも関わらず、減価償却費を経費計上可能です。
このため、実際の収支よりも最終的な納税額を安く抑える効果を期待することができ、減価償却がない場合と比べると手元にお金を残しやすくなります。
賃貸経営で多く減価償却するためのポイント
賃貸経営でできるだけ多く減価償却するためのポイントとしては以下のようなものが挙げられます。
- 残耐用年数の少ない物件を選ぶ
- 建物本体と付属設備を分けて減価償却する
それぞれ見ていきましょう。
残耐用年数の少ない物件を選ぶ
残耐用年数の少ない物件を選ぶことで、1年あたり計上できる減価償却費を多くすることができます。
耐用年数 | |
木造築20年のアパート: | 22年-20年+(20年×0.2)=6年 |
木造築30年のアパート | 22年×0.2=4年 |
重量鉄骨造築20年のアパート | 34年-20年+(20年×0.2)=18年 |
建物本体と付属設備を分けて減価償却する
建物全体で減価償却するのではなく、建物本体と付属設備を分けて減価償却することで、減価償却費を多く計上する方法もあります。
この方法を選ぶ場合は、計算が複雑になることもあり、事前に税理士などの専門家にアドバイスを受けることが大切です。
減価償却が終わったらどうすれば良い?
減価償却が終わると、翌年以降減価償却費を計上できなくなります。
ここでは、賃貸経営において、減価償却の終わった物件を所有している場合の選択として以下の3つをご紹介します。
継続所有する
減価償却が終わったからといって、減価償却費の計上ができなくなるだけで、家賃収入などの収入がなくなるわけではありません。
まだ十分に入居者を確保でき、家賃収入が得られるようであれば、物件を所有し続けても問題ないでしょう。
売却する
減価償却が終わった物件を所有し続けると、減価償却費を計上していた期間と比べて毎年の税負担が大きくなってしまいます。
このため、減価償却が終わるタイミングで売却を検討するのも一つの方法です。
減価償却が終了した物件を売却して、新たに他の物件を購入すれば、改めて減価償却していくことができます。
ただし、減価償却が終了した建物は融資を引きづらくなることから買い手が制限されてしまう点には注意しなければなりません。
どうしても買い手がつきにくい場合、建物を解体して土地として売却する方法もあります。
とはいえ、この方法についても、建物を解体するには入居者を全員退去させなければならないといった手間がかかる点に注意が必要です。
建て替える
減価償却の終わった建物を解体し、新しい建物に建て替えた場合、耐用年数に応じて改めて減価償却していくことが可能です。
十分な集客を見込める立地であれば、建て替えを検討するのもよいでしょう。
ただし、建て替えする場合、建物を解体して土地として売る方法と同じく、解体前には入居者を退去させなければなりません。
入居者を退去させるには、建物が老朽化しているといった正当な事由が必要で、入居者に対して立ち退き料など支払わなければならない点は押さえておく必要があります。
賃貸経営における減価償却の注意点
賃貸経営における減価償却で気を付けておかなければならない点として、減価償却費を多く計上することで売却時の税金が高くなる可能性があることが上げられます。
例えば個人の場合、不動産を売却したときの譲渡所得税は以下の計算式で求めることが可能です。
- 課税譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除
- 税額=課税譲渡所得×税率
上記のうち、取得費は売却した不動産を取得したときの費用も計上しますが、このとき物件所有時に計上していた減価償却費の合計を建物取得価格から差し引く必要があります。
例えば、先程の5,000万円の新築木造アパートは減価償却費が207年でしたが、取得してから20年後に売却する場合5,000万円-(207万円×20年)=860万円しか取得費として計上できなくなるのです。
まとめ
賃貸経営における減価償却について解説しました。
減価償却を活用することで、毎年の税負担を抑えることができるため、賃貸経営していくのであれば仕組みを理解しておくことが大切です。
細かなところは専門家に確認すれば問題ないですが、耐用年数の計算方法など、全体の仕組みについては本記事の内容を参考に理解しておくようにしましょう。